治療

最後に治療についてお話しします。以下は、治療を行う医師向けに、その概要を記載しています。
治療に際して担当医は、子どもと保護者の心に思いを馳せて、実施してください。
治療の導入に際してまず行うことは、ODの発症機序を子どもと保護者に十分に理解してもらうことです。重症のODの子どもは強い不安を持っています。

強い症状に対する不安、周囲から仮病扱いされることへの苛立ち、さらに親子関係における様々な葛藤、学校生活でのトラブル、学校不信といった心理社会的背景を抱えています。
医療者は、このような子どもの心のうちを理解した上で、ODとは、どのような病気なのか、メカニズムも含めて十分に説明する必要があります。

たとえば、検査結果の血圧記録を示して子どもに説明すると、説得力があり、子どもは自分の症状の原因を知ったことで、ずいぶんと安心します。子どもと医療者の信頼関係が出来て、その後の治療がすみやかになります。

一方、保護者に対しては、OD症状を単なる仮病と見なさないように、説得します。
ODの子どもは、放っておくと一日中、ごろごろして、テレビやゲームをしています。
勉強の集中力はひどく低下するので、周囲の大人はどうしても怠け癖と見なしてしまいます。

しかし、これは正しい考えではありません。
親に対しては、『決して焦らず、子どもを信じて見守る』ことの重要性を説得しましょう。

具体的な日常生活の注意点
軽症例では、非薬物療法から開始します。水分を多くとりましょう。子どもの体重が30kgの場合では1日1.5リットル、45kg以上では2リットルが必要です。

運動療法では、散歩程度の歩行にします。
ODの多くは運動が嫌いですが、横になりっぱなしならないようにします。
また心拍数が120を越えない程度の軽い運動は毎日行います。

起立時には、いきなり立ち上がらずに、30秒程かけてゆっくり起立します。
また歩き始める時にも、頭位を前屈させれば、脳血流が低下しないので起立時の失神を予防できます。
また起立中には、足踏みをしたり、両足をクロスに交叉すると血圧低下が防げます。

早寝早起きなどの規則正しい生活リズムを心掛けるようにしますが、これは実行困難です。声かけ程度にしておきます。

気温の暑い場所は避けましょう。高温の場所では、末梢血管は動脈、静脈とも拡張し、また発汗によって脱水をおこし、血圧低下を来します。体育の授業を見学させる時は、必ず保健室などの室内において、座って待機するようにします。

下半身への血液貯留を防ぎ、血圧低下を防止する装具があります。
弾性ストッキングやODバンドのような加圧式腹部バンドは、適切に利用すると効果があります。

食事の注意点ですが、ODの子どもは塩辛いものを好みません。
循環血漿量を増やすため、やや多めの食塩摂取は効果があります。
薬物療法

非薬物療法で改善しない場合、あるいは、起立保持が困難で日常生活に支障を来たしている重症例では、薬物療法も併用します。

薬物療法を世界的に見ると、現在、最も多く使われている薬剤は、抵抗血管である細動脈と、容量血管である静脈の両方に作用し、かつ副作用が少ないため使い易いです。

また、静脈血管を特異的に収縮させるタイプなど治療薬にはいくつか作用機序の異なるものがありますので、日常生活に支障を来している方は、医師に相談してみてください。